タイトル:「あなたの反応が私をつくる。私の⾏動があなたをつくる。」
素材:映像、写真など
制作年:2017年から
発表:2017,2018,2019,2021,2023年
「あなたの反応が私をつくる、私の行動があなたをつくる。」は中国・重慶で出会った、ある青年とのコミュニケーションを通してつくられた記録などの総称だ。
映像では、椅子をつくる、絵を描く、とうもろこしを食べる、将棋をする、長江に行くなどの活動を通した言葉のやりとりを字幕で表現している。映像での対話の記録とは別に、一緒に二重露光の写真を撮るというプロジェクトも行っていた。展示では、映像、写真、テキストなど、様々なメディアを使って表現される。
青年は、経済的にも政治的にも取り残された位置におり、一般的な理解の仕方で言えばホームレスと言うことになる。私はホームレスという単語で彼を捉えることはできないと思っているし、ホームレスという単語を使って一般化して理解したような気になろうと思えば、彼を知ることはできないと思っている。私と彼とは、国家も、母国語も違う。そういった状態での対話を通して、新しい言葉や関係のつくり方を発見することを試みた。普通、言葉は意味のやり取りをするものだが、そうではない言葉の機能を考え直すことが、この作品が問題にしようとしていることだ。 一般化して理解しやすくするという、人間の思考や言葉の機能を私は変更したいと考えていた。
また、社会や他者と関わるタイプの芸術が持ってしまう、芸術の特権的な部分についての問題も考えていた。つまり、彼と私との間には、被写体と芸術家というポジションの違いがあるように見え、彼の生活を切り取る行為としての撮影することが持ってしまうある種の暴力性についてだ。この作品は、一見すると、そのようなものと同じ構造の中にある作品と映るかもしれない。しかしよく見て頂ければ実際はそうではないと気が付くと思う。これは、率直に言えば、単に友人関係を築いていく記録なのだ。私は、言葉を補完するために、カメラやいろいろな活動を介在させ美術を通してコミュニケーションを図るしか方法がなかった。それだけだ。このような個人的な関係が、どのように芸術一般と関わっているのかは、正直に言うと分からない。しかし、これは特殊な事例であり、「あなたの反応が私をつくる、私の行動があなたをつくる。」というタイトルは、このような個人的な関係を構築するような仕方でしか、自分の手の届く範囲の人へ向けて作品をつくることはできないのではないかということを表している。